創業融資の自己資金を増加させるさまざまな方法

資金ゼロで飲食店を開業できるか
この記事を書いた人
工藤聡生

公認会計士・税理士
元銀行員、20年にわたり、創業融資、銀行融資、VCからの資金調達を支援てきました。資金調達の累計額は、100億円以上です。

自己資金は多いほど有利です

日本政策金融公庫の創業融資と自治体の制度融資では、自己資金の多寡はとても重視されています。審査では、重点的にチェックされます。
統計的に見ても、借りられる金額は自己資金に比例しています。日本政策金融公庫の統計データによれば、創業融資の額は平均的には自己資金の3倍弱です。
自己資金が不足していても、創業計画書の内容がとてもしっかりとしているために、十分な創業資金の融資に成功された経営者はたくさんいらっしゃいますし、さまざまな工夫により、自己資金を膨らませる方法もあります。ただ、額面の自己資金が多いほうが、審査は有利であることは確かです。

なんで自己資金は重視されているのでしょうか?
第1に必要資金をすべて借金でまかなった場合には、将来、そのビジネスが資金ショートを起こす可能性が高いからです。自己資金が少ないほど、資金繰りが破綻するリスクが高いと見られてしまうのです。
次に、審査担当者は、自己資金が足りないと、起業準備の努力や計画性が足りないと判断する傾向があります。

自己資金を補う方法

ですので、自己資金が不足しているときは、さまざまな方法で自己資金を補う必要があります。
主な手法をご紹介しましょう。

自己資金として認められるもの
  • 自己名義の銀行口座の資金 給与や個人事業で自分の口座にコツコツためてきたお金
  • 配偶者名義の預金 出資するか、使用可能な資金としてアピールします。
  • 親、兄弟、親類からの贈与 贈与契約書があり、親の財務状況がしっかりしていれば、自己資金として認めてもらえます。
  • 第三者割り当て増資 なぜ、第三者が出資してくれるのか、出資理由が明確であれば、問題なく、自己資金として認めてもらえます。
  • みなし自己資金 すでに使ってしまったお金でも事業用として使われていることを示すことができれば、自己資金として扱ってもらえます。創業融資の申し込むまでの支出については、確証をしっかりと残しておきましょう。
  • 現物出資 事業用資産に使われることをきちっと説明できれば、その分だけ銀行の評価は上がります。営業用車両などがよく利用されます。
  • 退職金 近い将来退職したときにもらえることが明らかであれば、自己資金扱いとなります。
  • 不動産や車などの資産売却代金 売買契約書等の証憑が必要です。
  • 株式や解約返戻金のある保険 売却、解約をして出資をするか、使用可能な資金としてアピールします。
  • 貸付金の回収 親類、友人などに貸した貸付金回収額です。

などの方法があります。
なお、次のものは、自己資金として認められません。

自己資金として認められないもの
  • タンス預金 銀行に預けずに自分で保管していたお金のことです。次の見せ金の脱法行為として行われることが多かったので、認められなくなりました。
  • 見せ金 一時的に調達したお金を自己資金として見せかける行為です。この概念を理解しておくことは、審査を乗り切るうえで重要です。下記で詳細に説明します。
  • 借りたお金 キャッシングやカードローンで借りたお金は、自己資金とは認められません。

自己資金とは?厳しい定義

ところで自己資金とはいったいどんな資金でしょうか?当たり前のことかもしれませんが、まずはこの基本的な概念から確認しておきましょう。 自己資金とは、簡単に言えば、「誰にも返す必要がないお金」です。
例えば、給料から少しずつ、蓄えたお金は、だれにも返済義務をおいません。これは、自己資金の典型例です。
一方で、借金をして手に入れたお金は、自己資金とはいいません。いつか返さなければならないからです。
親から渡されたお金であっても、親が明確に贈与の意思を示していなければ自己資金とはみなされない可能性があります。いつか親から返済を求められるかもしれないからです。たとえ、形式的に贈与契約書があっても、親の財務状況が悪ければ、将来、返してくれと言われるかもしれないので、自己資金とはみなされないこともあります。
第三者から出資してもらったお金は、第三者の資金であり、対価として会社の持分の一部をわたしていますが、返済する必要はありません。ですから、第三者からの出資は、自己資金です。
「返さなければならないか否か」が、判断の分かれ目です。

自己資金を大きくするための見せ金への対応は厳しい

見せ金とは、友人などからお金を借りて、それを自分がためてきた資金と見せかけて通帳に入金し、融資審査のときに提示して、融資を受けることができたら、すぐにお金を引き出して、友人などへ返済する手法です。自己資金があるように見せかけているだけで、実在しないので、見せ金と言います。

融資の見せ金を会社法の見せ金と混同する方が多いのですが、はっきりと区別してください。会社法の見せ金は、かなり範囲が狭いです。ですので、最高裁はめったなことでは、出資行為を見せ金とは断じません。しかし、融資審査においては、疑われたら、それでおしまいです。融資を断られるだけでなく、記録が残るので、その後の融資も難しくなります。

見せ金の利用は、通帳精査により簡単に見抜かれてしまうことが多いということをご理解ください。
審査のときには、通帳の持参を求められます。まとまったお金がいきなり、通帳に振り込まれていればとても目立ちます。一時的な借金の場合は、その振り込まれたお金の出所について裏づけを示すことができないので、簡単に見せ金であると見抜かれてしまいます。
日本政策金融公庫や信用保証協会などは、過去6ヶ月以上前に遡って通帳を確認します。最近は、1年近く前にさかのぼって通帳を確認することもあります。不自然な入金があり、それが見せ金であると判断されると著しく信用を損なうこととなります。

いろんな口実を考える人がいますが、あれこれと口頭で弁明しても、裏づけ資料がきっちりと示されなければ信じてもらえません。立証責任はこちら側にあります。もし、疑いをはらすことができなければ、お金は貸してもらえません。裁量権は、あくまで銀行側にあります。証拠をこちらが示せなければ、銀行側には融資を断る権利があるのです。銀行には融資を断った理由を開示する義務もありません。

見せ金だと判断されると、不正な行為なので、融資は謝絶されます。それだけでなく、見せ金行為をした人という情報が残されるのでその後の融資申込に不利となります。日本政策金融公庫は、個人情報の保有期間については、明確な制限期間を設けておりませんので、注意が必要です。

自己名義の通帳にある資金

当然に自己資金として認められます。
通帳をみればコツコツためてきたことも明らかです。
ただ、ほかの自分の口座や証券会社の口座からの資金移動などにより、残高が突如、増加する場合は、見せ金とレッテルを貼られる恐れがあります。
その場合は、資金移動の経緯を説明できるように関連した口座の動きがわかる通帳や明細を用意しておいてください。

審査では、自己名義の通帳の提示を求められます

通帳原本を面談時に提出する必要があります。
コピーは、その場でとられるか、事前提出を求められます。
期間は、半年から1年分です。

審査の担当者は、通帳から、信用情報や支払能力に関するさまざまな情報を読み取ります。高金利ローンの返済がないかとか、公共料金はちゃんと払っているか等々も同時にチェックします。

配偶者の口座にある資金

経済的に一体だとみなされるので、配偶者がコツコツためてきたお金も自己資金とみなされます。ただ、配偶者の理解が得られ、いざとなれば資金援助してもらえる合意があることが前提ですので、配偶者の方とは十分に相談しておいてください。

審査の場面では、配偶者の通帳を持ち込めば、合意があるから配偶者が通帳を渡したのだろうと推測されますが、場合によっては、自己資金として使用する合意書を求められることもあります。

親・兄弟・親類からのお金は、贈与契約書を作成しておこう

親からの支援であれば、正式な贈与契約書を用意しておきましょう。通帳上は、いきなりまとまったお金が入金しますので、なんらかの書面がないとやはり、それが本当に親からの支援なのかが疑われますし、親の名義で振り込まれていたとしても、贈与の意思が明確でなければ、やはり自己資金とはみなしてもらえないかもしれません。

さらに、贈与契約書があっても必ずしもそれだけでOKというわけではありません。
贈与契約書があっても融資を断られてしまうこともあります。
親子の関係ですから、贈与契約書を形式的に用意しても、あとで返金する約束になっているのではないかと疑われることもあるのです。
ですので、親の財務状況も積極的に説明しましょう。
『親はお金があるので、本当に返す必要はない』というところまで説明する必要があります。
ですので、親等から資金をもらったときは、贈与契約書を用意するとともに、親等の財務状況の説明資料も用意しましょう。

なお、資金を移動する際には、親の口座から直接に自分の口座へ振り込んでください。親から現金でもらってそれを振り込むと不自然な取引とみなされる恐れがあります。親からもらったのではなくて、見せ金ではないのかと疑念を持たれてしまうのです。

なお、贈与した資金の額によっては、贈与税が発生しますが、提出した書類は個人情報なので日本政策金融公庫が積極的に情報を税務当局に提供することはありません。とりあえず、創業融資を突破することに集中しましょう。

友人・知人に出資してもらい自己資金を増やす

自己資金が不足した場合には、友人・知人からの出資を受ける方法もあります。株主になってもらい、お金を出してもらうのです。出資してもらった分だけ会社の自己資本は大きくなります。
将来の株式の値上がりや配当をアピールして出資してもらうのです。「将来は共同経営者として会社に参加してよ」という言い方も効きます。魅力的な事業計画を見せればなおさら効果があるでしょう。

出資を受けられる場合は、友人、知人を事業協力者として説明できるようにしておいてください。
かれらとの関係が長期的なパートナーシップであると説明できないと、自己資金とはみなしてもらえないからです。
そのお金が出資を受けたのちに、すぐにその友人・知人の手元に戻るようであれば、それは、見せ金ですので出資とはみなされません。 見せ金とは、出資したと見せかけておいて、登記後に出資者に返済されてしまうお金のことです。
見せ金と疑われただけで、銀行から融資を断られることがあります。見せ金ではないかと疑われないためには、出資の経緯等をきちっと説明できるようにしておきましょう。
出資をうけた経緯を理路整然と説明できないと見せ金と疑われてしまうことがあります。友人の素性・関係、友人には出資することによってどんなメリットがあるのか、または、御社のビジネスにどんな関わりあいをもつのかを、審査担当者に理解してもらえることが重要です。

なお、見せ金は、見つかれば公正証書原本不実記載罪で刑事責任を問われることがあります。刑事責任を問われるのは極めてまれなことですが、法的にもリスクのある行為だということをご理解しておいてください。

さらに、経営を安定させるためには、議決権の過半数、望ましくは3分の2以上を確保する必要があります。多額の出資を受けると、経営の安定に必要な議決権を失ってしまうことがあります。とくに持分の過半数を自分で持っていないと会社を追い出されることもありますので注意してください。

ただ、多額の出資を受けた場合にはどうしても過半数の持分の維持が難しくなります。他人から多額の出資をうけたときは、ストックオプションを利用して、持分の維持をはかることができます。ストックオプションを発行するためには、自分が持分の大部分を持っている段階で会社法に定められた手続きを踏み、正式の付与契約を締結する必要があります。ストックオプション契約の雛形は、ベンチャー投資や株式公開関連のコンサル経験のある司法書士か会計事務所に依頼すれば手に入れることができます。

審査では、第三者割当増資であることを証明するために、株式申込書、株主総会議事録、株主名簿を用意する必要があります。

みなし自己資金現物出資

創業融資申込前に棚卸資産、備品、設備を購入した場合や、事務所や店舗の賃貸のために支出をした場合には、そのお金は、みなし自己資金として、自己資金扱いとなります。事業用に購入した棚卸資産や備品などは、かき集めると大きな金額になることがあるので、関連する証憑は、保管するようにしておいてください。
みなし自己資金として認められるためには、創業計画書に織り込んでおく必要があります。創業計画書上に織り込まずに、あとで事前支出があったと主張しても認められないので、注意が必要です。

現物出資

現物出資は、事業用に使われる資産を会社の資本金として出資する行為です。事業用資産の価額の分だけ出資額が大きくなるので、銀行の評価は上がります。事業に使われる資産である必要がありますが、価額が500万円以下の固定資産とか、市場価格のある有価証券であれば、検査役検査が不要ですので、創業時でも現物出資により、資本金を大きくすることができます。資本金=自己資本ですので、創業融資の審査上は、有利となります。

退職金、不動産・車などの資産売却代金、有価証券売却代金、保険解約金、貸付金の回収を見せ金だと誤解されないようにすること

本当に自分のお金である場合にも、注意が必要です。通帳から判断して少しずつためていったお金であることが明らかであれば誤解されることはありませんが、問題は、一時的に資金移動があった場合です。例えば、退職金、不動産・車などの資産売却代金、有価証券売却代金、保険解約金、貸付金の回収などの場合です。まとまったお金が突如、通帳に払い込まれているので一時借入による見せ金なのか、自己資金であるかがはっきりしません。通帳を見る限りは、相当額のお金が突然に振り込まれているからです。
退職金、不動産・車などの資産売却代金、有価証券売却代金、保険解約金、貸付金の回収金を自己資本とする場合は、見せ金と思われないように証憑を自主的に用意して、面談の時に持っていき、審査する側に疑念をもたれないようにしましょう。
個々の証憑については、事実関係がわかるものであれば、細かい指定はありませんので神経質になる必要はありません。たとえば、退職であれば、退職証明書、退職金の支給明細書、源泉徴収票のいずれでも大丈夫です。用意した書類で不十分であれば後日追加資料を提出するだけのことです。
ただ、自己資金の中核となることが多いので、あるだけの関係資料を持ち込みましょう。銀行は理由を言わずに融資を断ることができます。積極的な資料準備が必要です。

塩漬けの株式を解約したくない

貯蓄を株式やFXに投資している人の中には、投資が塩漬けになっているために資金化するのをいやがられるかたがいます。私どもでは、なるべく、それをいったん解約して、会社の資本(自己資金)に充当されることを勧めています。
投資にはあくまで余剰資金を充てるべきものでしょう。換金性の高い資産があるのであれば、まずは、将来の生計をたてるために必要な開業資金へ投入すべきです。まずは生活基盤を構築することが先決です。投資なんかにお金を回している場合ではありません。

どうしても株式を手放したくないということなら、いったん解約して資本金として会社に投入し、会社名義で同じ銘柄の株式を買えばよいのです。すばやく実行すれば相場も大きくかわらないでしょうから、ほとんど同じ価格で再購入できます。 値上がり益と会社の当初の創業赤字が相殺され、結果として節税になったということもありますし、損がでた場合も会社の場合は赤字を繰越し、将来の黒字と相殺できます。

自己資金をどうしても増やせないときには?

ほかのところでリカバリーしてください。
実は、方法はいろいろとあります。

  • サラリーマン時代の事業経験、達成したことを強くアピールする。
  • 潜在顧客名簿で箔をつける。売り先があることをアピールする。
  • サラリーマン時代の営業成績をアピールして営業力があることを示す。
  • わかりやすく、ビジネスフローを説明する。審査担当者にビジネスへの理解を深めてもらう。
  • 事業計画をきちっとつくって数字に強いところを見せる。詳細な売上予測をもとに損益計画や資金繰り計画をきちっと作って事業が確かなものであることをアピールする。
  • とにかく、前向きな意欲を前面に出して粘る。熱意でリカバーできる場合も稀にあります。

わたくしどもがサポートした事例でも、こういった対策によってリカバリーできた成功例は少なくありません。決して、諦めないでください。
これらの方法がうまくいくと、自己資金の4~10倍の融資も不可能ではありません。うまくはまるときは、本当に効果があります。

創業補助金などの助成金を活用する方法もありますが、金額が小さいうえに後払いなのでもっと資金が必要な創業時点に間に合いません。創業融資の金額を膨らませべく努力する方が、より現実的な対応です。

自己資金の何倍まで借りられるか

日本政策金融公庫の統計的には、3倍弱です。
また、ご自分で申し込まれた場合の成功確率は、約50%ぐらいです。

ただ、自己資金だけで融資可能額が決まるわけではありません。
そのほかにも、事業経験と信用情報、創業計画書の出来具合などが考慮されます。
そのほかの要素が考慮されて、自己資金の4~10倍ほどの資金の調達に成功した事例は、少なからずあります。
また、創業融資に手慣れた税理士をつかえば、成功確率はとても高くなります。

general

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