公認会計士・税理士
元銀行員、20年にわたり、創業融資、銀行融資、VCからの資金調達を支援てきました。資金調達の累計額は、100億円以上です。
創業者のための資金調達方法は?
この記事では、創業のための資金調達方法についてご紹介します。以下、さまざまな手法を簡略にご紹介しますので、自分に合っている資金調達方法に挑戦してください。
銀行は頼れない
創業する際に、頼れそうで頼れないのが銀行です。あらたに創業される方には、なかなか融資をしてくれません。それには理由があります。銀行は、事業性評価といわれる方式によって企業を評価して、貸付を実施することにはなっています。企業の実態をみて将来性を判断する建前とはなっていますが、過去の業績・財政状態を示す財務諸表がないと、評価は低くなり、貸してもらえません。創業者の場合は、担保か、信用力のある会社か個人の保証がない限り、民間銀行の融資には、期待できません。
フィンテック
最近では、フィンテック企業が提供するオンライン融資サービスも登場しており、従来の銀行とは異なる基準で融資を行っているケースもあります。フィンテックは、AIによるレーティングにより、柔軟に資金を貸してくれる可能性があります。ただ、AIによるレーティングといっても、過去の実績が必要なので、創業時点あるいは創業直後のベンチャーが、利用するのは難しいでしょう。あとで述べる、制度融資を利用した追加融資の方が現実的だと思います。
親からの贈与と創業融資の組み合わせ
親からの贈与を自己資金として使い、創業融資で資金を膨らませる方法は、よく見受けられます。親から借りたお金ではなく、もらったお金であり、返済不要であることを証明するために、贈与契約書を締結し、創業計画書の添付資料として提出しましょう。
ただ、親からの贈与の占める割合が大きいと良い印象は与えません。ですので、自分でこつこつと資金を貯めた部分が自己資金の過半であることが望ましいです。
友人・知人から援助してもらう方法
親の次に多いのが、親しい親類、友人などの身近な人からの援助です。しかし、周囲の方が援助に乗り気とは、限りません。そこで、援助を得るために、さまざまな見返りを約束したりします。親以外から、援助を引き出すとしたら、メリットを訴えるために、会社の株式(持分です)を譲ることがよくあります。将来の配当や株式売却益などの金銭的なメリットをアピールに使うのです。この方法は、決して悪い方法ではありません。そもそも株式会社は、広く資金を集めるツールとして発達した会社形態だからです。ただ、この方法に頼りすぎると自分の持分を失い、会社が成長したら経営権を失うということもありえますので要注意です。社長は、少なくとも、絶対的な支配権と言われる全株式の3分の2以上は、確保するようにしてください。3分の1超の株式持分を持たれると重要な経営上の意思決定に関して拒否権を持たれてしまうことになるからです。
少人数私募債
50人未満の投資家からの、社債発行による資金調達です。50人を超えると金融庁へ有価証券届出書を提出する必要があります。作成も大変ですし、金融庁に厳重にチェックされ、なかなか受理してもらえないので、50人未満は、必須です。多くの場合、知り合いに社債といわれる債券を発行して、資金を調達します。調達した資金は、一定期間後に、一括返済します。知人から広く資金調達するのに適していますが、返済が一括なので、返済時にかなり業績がよくなっていないと、返済資金の調達に苦労します。
高金利のお金を借りる?
上記の方法がうまくゆかなくなった場合に、起業家が手をだしてしまうので、高金利のお金です。 創業するかたがやってはゆけないのが、サラ金、ビジネスローン、クレジットカードローンなどの返済期間の短い高利の融資に手を出すことです。手軽である分、金利は、高く設定されています。例えば、ビジネスローンの金利は、約15%です。
仮に800万円を借りてみた場合を想定してみましょう。仮に金利が10%で返済期間が1年だとすると、毎月の返済は、73万円にもなります。人件費や事務所家賃等の経費を払ったあとにさらにそれだけのお金を残すことができるでしょうか。創業間もない、多くの起業家にとって無理な返済額だと思います。借金を返済するためにまた借金して負債が急速に膨らみ、利息の支払が会社の首をしめてゆきます。 それだけではありません。後述する公的資金も借りられなくなります。ですので、高金利の資金には、絶対に手を出さないでください。
ほかにも、デメリットはあります。高金利の資金に手を出していることがばれると通常の金融機関からとても借りづらくなります。高金利のお金に手を出さざるを得ないぐらい困っている会社と評価されてしまうからです。持続的な資金調達という観点からも、高金利の借入には、手を出すのは危険です。
クラウドファンディングの活用
近年、クラウドファンディングが新たな資金調達方法として注目されています。クラウドファンディングとは、インターネットを通じて不特定多数の人々から資金を集める手法です。さまざまな専門サイトが誕生し、成長しています。法的な形式としては、寄付型、借入型、出資型、最終的に開発された製品やサービスを買う購入型があります。社会的意義のある事業やSDGsに関連する事業は、支援を得やすい傾向にあります。ただし、クラウドファンディングは、確実性が低くいくら集まるか読めないので、下記の創業融資と組み合わせるのがお勧めです。
個人投資家やベンチャーキャピタルからの投資
投資家に出資してもらうことにより、資金調達する方法です。借入ではなく、株式を引き受けてもらう対価なので、返済不要ですし、通常株価は、高めに設定するので、経営権も維持できます。ただ、どんなにすぐれたアイディアや技術であっても、経営者に実績があるか、その技術が第三者から高く評価されないかぎりは、機関投資家や有力な投資家は、そもそも見向きもしてくれません。プロトタイプや、売上実績とか、なんらかの実績ができてから活用した方がよいでしょう。魅力的な実績があれば、株価を釣り上げて有利に第三者割当増資ができます。株価は、交渉により自由に設定することができます。
資産活用型(アセットファイナンス)
資金調達のほとんどは、借入をしたり、出資をしてもらう手法です。借入は、いつかは返済しなければなりません。出資は、会社の所有権の一部を譲渡しなければなりませんが、資金は、返済不要です。
これらの手法の他に企業が、所有している資産を売却して資金を調達する方法もあります。
たとえば、売掛債権には、通常、回収条件があります。たとえば、商品引き渡し後1カ月後とか、回収まで、一定期間が設定されています。この回収期限前に売掛債権を売却して回収するのが、ファクタリングです。優良企業への売掛債権が一定額以上あるなら、ファクタリングしてもらえます。
手形割引も似た手法です。約束手形を期日前に銀行に買い取ってもらう手法です。
その他に、所有不動産を売却した後にリースバックして使用しつづけるセールスリースバックの手法があります。セールスリースバックでは、不動産の所有権は、失いますが、売った不動産を賃貸するので不動産は、使用し続けられます。所有不動産を売却すると代金が相手方から一時に入金しますが、毎年払うリース料は、その数パーセントなので、当面の資金繰りは、ぐっと楽になります。ですので、資金調達方法のひとつとみなされます。不動産がある場合には、担保にいれて銀行借入をするのも、一方です。
以上、不動産、信頼性のある相手先に対する売掛金・手形は、換金することにより、資金調達できます。
公的金融機関がもっと利用しやすい
それでは、創業者はどうすればよいのでしょうか?上記の方法も積極的に利用すべきではありますが、確率論的にもっとも手堅いのは、公的な金融機関からの借入です。上記の方法を利用するにしても、公的金融機関からの借り入れは、併用した方がよいでしょう。公的金融機関からの借入制度とは、具体的には、日本政策金融公庫の新規開業資金や、信用保証協会と地方自治体がバックアップする融資制度、すなわち、制度融資です。
日本政策金融公庫について
まず、日本政策金融公庫についてご説明します。日本政策金融公庫は、全額政府出資の銀行であり、日本経済の成長、地域活性化、セーフティネットといった公的役割を経営目標として与えられています。ですから、民間の銀行と異なり、創業支援に対して積極的です。株主である政府から与えられた使命ですから、創業者にも、耳を傾けてくれるのです。日本政策金融公庫には、創業者に対しても無担保・無保証人でお金を貸してくれる制度があります。金利は、金利動向により変動しますが、おおむね、2%前後です。無担保・無保証人ということは、仮にビジネスが失敗して会社が倒産しても、社長には、借金を返す義務はないということです。これからビジネスを始めるかたには、大変にありがたい話です。通常の場合は、融資を受ける際には、少なくとも社長は、保証人になるように要求されます。会社がつぶれたら個人で債務を負わなければならないのです。
日本政策金融公庫が、具体的に提供している創業者向けの融資制度は、「新規開業資金」です。創業者には、無担保、無保証、低金利で資金を提供してくれます。オンラインで申請することができます。
制度融資の活用
次に創業されるかたに検討していただきたい借入方法として、信用保証協会の活用があります。信用保証協会とは、中小企業が銀行からお金を借りるときに保証人になってくれる公的機関です。都道府県ごとに設置されています。一定の保証料を払う必要はありますが、保証を受けることができれば、銀行から低金利でかつ長期の融資をうけることができます。保証料率は、通常は会社の信用等に応じて設定されていますが、創業融資の場合は一定率に抑えられています。
信用保証協会を利用した融資制度のなかでも、地方公共団体による制度融資は、魅力的な制度です。制度融資とは、都道府県、市区町村が信用保証協会の保証にさらに利子補給等を加えて、中小企業を支援する融資制度です。お金をかしてくれるのは普通の金融機関です。そこは普通の融資と変わりません。違うのは、信用保証協会が保証をしてくれるのと、さらに自治体が斡旋や利子補給、保証料補助をしてくれる点です。制度融資には、さまざまな融資制度がありますが、そのなかに、創業者に融資をしてくれる『創業融資』があります。東京都の場合ですと東京都と市区町村の二つの制度融資があります。利子補給、保証料補助といった融資制度の内容は、自治体によって異なります。
ただ、借入をされた多くの方がおっしゃることですが、いろんなところで話を聞いてゆかないとどうやれば借りられるのかなかなか見えてこないという難点もあります。実際に融資をしてくれるのは金融機関なのですが、相手方に、金融機関のほかに信用保証協会と地方自治体の2者がいるので、それが、手続きをわかりづらくしているのです。さらに、融資制度とか自治体の役割が自治体によって異なるので、どうしても、初めての方には手続きがわかりづらくなってしまうのです。手続きが煩雑である分、融資がおりるまでの期間が比較的長いというデメリットもあります。とくに市区町村の創業融資は、経営相談員の面談があるので、融資決定まで2~3カ月かかってしまうことがあります。
日本政策金融公庫の新規開業資金と東京都の制度融資の比較
実際に融資してくれる金額、返済期間、審査の厳しさは、両者に大差はありません。ただ、計画がしっかりしていれば、日本政策金融公庫の審査の方がやや楽かなという印象はあります。金利については、表面上は、制度融資のほうが有利ですが、制度融資の場合には、信用保証料を支払わなければならないので、実質的な金利も、優劣はつけがたいです。利子補給や保証料補助がある場合には、実質金利負担は、小さくなりますが、融資決定までに時間がかかるというデメリットがあります。実質的な審査で求められる自己資金のレベルについても、大差はありません。担保・保証についても、また、大差ありません。ともに、保証人・担保を求めない制度があります。会社の代表者自らも保証人になる必要がありません。会社が倒産しても借金から免責されるということです。ただ、申し込みから融資決定までの期間は、日本政策金融公庫の方が短いです。日本政策金融公庫の場合は、1ヶ月ぐらいです。もっと短縮できるケースもあります。一方、制度融資は、2ヶ月~3ヶ月は必要です。この融資決定までの期間の差は、起業家にとっては重要です。制度融資だけに頼ると、この1ケ月~2か月間、売上を計上できないので、日本政策金融公庫からの融資を優先させるのがおすすめです。制度融資は、追加融資で活用するのが、得策でしょう。
公的創業融資の成功確率
日本政策金融公庫や、信用保証協会を利用した制度融資を引き出すことに成功する確率はどれぐらいでしょうか?正確な統計はありませんが、創業融資の成功率は、約40~50%ぐらいだといわれています。ただ、謝絶されなくとも、減額されるケースが少なくないので、要注意です。
補助金・助成金
創業補助金が、不定期でありますが、自治体経由で募集されています。典型例は、東京都の創業助成金です。創業後5年未満の中小企業が対象で、対象経費の3分の2が補助されます。詳細は、東京都の公式ウェッブサイトで確認してください。補助金は、返済不要の資金ですので、とても創業者にとってはありがたいのですが、審査に時間がかかるということと、採択率が決して高くはないということ、そしてなによりも、後払いという制約があります。ですので、創業助成金を利用するにしても、創業時点で貸してもらえる創業融資との併用をおすすめします。
まとめ
わたくしどもの経験からすると、創業者の資金調達方法としては、親からの贈与、仲間からの出資、創業融資の利用、補助金・助成金の活用が多いです。最近は、クラウドファンディングも目にします。
仲間からの出資は、経営方針の違いから数年内に仲間割れすることが少なくないので、当初に、ビジネスプランをしっかりと話し合っておく必要があります。
とくに多いのが創業融資の活用です。上記の方法をいずれに挑戦されてもよいと思いますが、とりあえずは、バックアッププランとして、創業融資の借入は、しておいたほうがよいでしょう。創業融資は、創業時期が一番借りやすいですし、金利も安いで、ほかの調達方法で資金が調達できたら、寝かしておけばよいのです。