市区町村の創業融資制度の欠陥

この記事を書いた人
工藤聡生

公認会計士・税理士
元銀行員、20年にわたり、創業融資、銀行融資、VCからの資金調達を支援てきました。資金調達の累計額は、100億円以上です。

創業融資には、日本政策金融公庫の制度と、制度融資があります。
制度融資とは、自治体の支援のもとで信用保証協会が100%の保証人になってくれる創業融資のことです。
それぞれ、さらにいくつかの異なった制度が用意されています。

制度融資の場合は、都道府県と市区町村の創業融資があります。
都道府県と市区町村の創業融資を比べると、一見すると、市区町村の方が、利子補給や保証料補助が厚いので魅力的に見えます。
利子と保証料の負担を合わせても、約1%ぐらいに抑えられる創業融資も珍しくはありません。

しかし、市区町村の制度融資には、4つの大きな短所があります。
第1に、市区町村の場合には、実際に融資される額は、小さめになります。
そのため、1,000万円近い高額融資になると成功確率がとても低くなります。
2番目の欠点は、融資実行までに時間がかかりすぎるということです。
市区町村の創業融資は、実行されるまでに2ヶ月から2ヶ月半は必要です。
制度融資は、もともと信用金庫などを窓口にして、信用保証協会でも審査するために時間がかかります。
市区町村の創業融資の場合には、経営相談員が創業計画書の内容を検証するので、さらに時間がかかってしまうのです。
経営相談員への面談は、最低でも数回は行われ、かつ、間隔を置いて実施されるので、短期間でパスすることはできません。
この欠点は、致命的と言っても過言ではありません。
創業時の融資実行に時間がかかるということは、それだけ創業の時期が遅れるということです。
創業が遅れれば、それだけ売上を稼ぐチャンスを失います。
300万円の融資で、利子や保証料の負担が1%下がったからと言っても、3万円しか得はしません。
しかし、創業が1カ月遅れれば、失う売上はその数十倍から数百倍になるはずです。
市区町村の創業融資の場合には、日本政策金融公庫に比べて1カ月は実行が遅いので約1カ月分の売上を失います。
通常の融資と違って、創業時の資金調達の場合は、金利や保証料だけを重視していると、逆に損をしてしまうのです。
3番目の欠点は、時間がかかるにもかかわらず、創業融資の成功確率が、さほど高くなるわけではないということです。
経営相談員として指導するのは、ほとんどが中小企業診断士です。
中小企業診断士は、財務や資金繰り表はあまり得意ではありません。
一方、信用保証協会の審査は、自己資金、事業経験、信用情報、損益計画や資金繰り計画の実現可能性を重点的に検証します。
経営相談員の指導内容は悪いものではありませんが、融資審査という観点ではさほどプラスになっていません。
2ヶ月以上、経営相談員の指導を受けても、創業融資を断られてしまうこともあります。
制度融資を利用するなら、東京都の創業融資のように、経営相談員への相談がなく、かつ、融資限度額が比較上大きい制度をご検討されることをお薦めします。
4番目の欠点は、経営者保証不要制度への取り組みが遅れているということです。たとえば都の創業融資であればスタートアップ創出促進保証制度に準拠した創業融資がありますので、経営者も保証が不要となり、倒産時の責任を回避できますが、市区町村の創業融資ではまだこの取り組みはあまり進んでいません。

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