公認会計士・税理士
元銀行員、20年にわたり、創業融資、銀行融資、VCからの資金調達を支援てきました。資金調達の累計額は、100億円以上です。
日本政策金融公庫とは?わかりやすく解説します
日本政策金融公庫(JFC)は、日本政府が100%出資する公的な金融機関であり、中小企業や個人事業主、農林漁業者などを対象に良心的な利用条件で、融資を行っています。
私どもが、担当者や支店長さんとお話してきた経験からすると、公的機関と銀行の中間のような存在という言い方が一番近いでしょう。政府与党や経産省からは、『創業者にもっと貸せ、審査を緩めろ』とプレッシャーをかけられていますが、一方では、審査を緩めて貸倒が増加すると、財務省から怒られるという板挟みに合っています。この特徴を理解しておくことは、日本政策金融公庫と付き合う上で、大切です。融資の条件は、確かに銀行よりも緩いですが、だからといって、甘く見ていると謝絶されてしまいます。
特徴と歴史
最大の特徴は、政府出資の金融機関であることです。 日本政策金融公庫は、国が100%株式を保有する特殊会社であり、民間の金融機関とは異なり、営利目的ではなく政策的な目的で運営されています。
日本政策金融公庫は、2008年に、3つの主要事業をそれぞれ営んでいた特殊法人が合併して誕生しました。「国民生活事業」を営んでいた特殊法人は、国民生活金融公庫といわれ、国金という名称で中小企業に親しまれていました。そのため、いまだに、この呼称は使われています。この特殊法人自体は、消滅しているので、国金という名称が使われているときは、日本政策金融公庫の『国民生活事業』のことを言っているのだなと理解してください。
広範な支店網
日本政策金融公庫(日本公庫)は、全国に152の支店を展開しており、地域に密着した金融サービスを提供しています。これにより、各地域の中小企業や個人事業主が、最寄りの支店で事業資金の相談や融資の申し込みを行うことができます。この支店網を通じて、日本公庫は、民間金融機関の取り組みを補完し、地域経済の発展を支援する役割を果たしています。
支店網は都市部では営業地域が重複していますので、民間金融機関とは違い、借りやすい支店を選ぶという戦術がとれます。
日本政策金融公庫の3つの役割
日本政策金融公庫は、100%政府出資の公的な金融機関ですので、次の3つの役割を果たすことになっています。
- セーフティネット機能の発揮: 自然災害や経済危機などの非常時において、事業者が直面するリスクを軽減するための融資を提供し、経済的な安定を図ります。
- 日本経済成長・発展への貢献: 新たな事業の創出や既存事業の再生を促進し、中小企業や農林水産業者が成長できる環境を整えます。
- 地域活性化への貢献: 地域プロジェクトへの参画や民間金融機関との連携を通じて、地域経済の活性化を支援します。
日本政策金融公庫の3つの事業内容
日本政策金融公庫は、上記の役割を果たすために次の3つの事業を営んでいます。その中でも、中小企業になじみが深い事業が、国民生活事業です。この事業は、国金と呼ばれ、3社合併以前より、中小企業を支えてきました。
- 国民生活事業: 一般市民や小規模事業者向けに、小口融資や教育ローンなどを提供し、新規開業者や創業間もない企業への支援を強化しています。
- 農林水産事業: 農林漁業者向けに特化した融資制度を設け、農業経営改善や新規参入者への支援を行います。
- 中小企業事業: 中小企業向けに長期的な事業資金を提供し、新規事業活動や経営改善を支援します。
銀行融資との違い
日本政策金融公庫は、100%政府出資であり、公的な役割が期待されるために、銀行とは、次の点で異なります。
- 審査基準がゆるい: JFCは創業前や実績がない状態でも融資を受けられる可能性が高いですが、銀行は通常、実績がないと審査が厳しくなります。創業者の場合は、銀行は貸してくれませんが、日本政策金融公庫は、実績がなくとも、事業者の経歴や自己資金を評価して融資を行っています。
- 保証人・担保不要: JFCでは無担保・無保証人で利用できる融資制度がありますが、銀行では原則として担保や保証人が必要であり、無担保・無保証にしてもらうのは、財務力と経営の透明性が求められます。
- 返済期間が長い: JFCは設備資金の場合、返済期間が最大20年と長期設定できることが多いですが、銀行は通常10年程度です。
- 保証料は発生しない:日本政策金融公庫は、銀行のように信用保証協会を利用することはないので、保証料の支払いは発生しません。ただし、銀行や信用金庫からお金を借りるときは、自治体の制度融資利用により信用保証料補助や利子補給が受けられることがあるので、一概に、日本政策金融公庫の方が、実質利子負担が少ないとは言えません。
- 預金を預からない:公的役割に専念するために、預金は、預かっていません。解りやすくいえば、お金を貸すだけの銀行で、預金はできない銀行なのです。
このように、日本政策金融公庫は特に創業時やリスクの高い事業への融資を希望する事業者にとって非常に有利な選択肢となります。
融資制度の種類
日本政策金融公庫の融資制度は、おおむね、次の3つに分類できます。
一般貸付
事業を営むほとんどの業種の方が対象となる融資制度です。
- 資金使途:運転資金、設備資金、特定設備資金
- 融資限度額: 無担保で最大4,800万円、特定設備資金の場合は7,200万円。
- 返済期間: 設備資金は10年以内、運転資金は7年以内。特定設備資金は、20年以内。
特別貸付
特定の要件にあてはまる場合に、利用できる融資制度です。新たに起業したい方、事業拡大や生産性向上を図る方、一時的に業況が悪化している方などの要件にあてはまる方が対象となる融資制度です。
- 融資限度額: ケースによって異なるが、一般的には4,800万円から7,200万円。
- 返済期間: 通常は7年から20年。
生活衛生貸付
飲食店や理容室、美容室、旅館などの生活衛生関係の事業を営む方を対象とする融資制度です。
- 資金使途:設備資金
- 融資限度額: 無担保で最大4,800万円、有担保の場合は業種によって異なるが最大4億8,000万円。
- 返済期間: 設備資金は13年以内。
融資額、金利、返済期間は、個々の融資制度により異なります
金利、返済期間などの条件は、融資制度によりことなります。中小企業が利用することが多い国民生活事業の主な融資制度をご紹介します。
新規開業資金
- 対象: これから創業する方、または創業後おおむね7年以内の方
- 融資限度額: 7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 返済期間: 設備資金20年以内、運転資金10年以内
- 特徴: 担保不要、低金利
女性、若者/シニア起業家資金
- 対象: 女性、35歳未満か55歳以上の方で、これから創業する方または創業後おおむね7年以内の方
- 融資限度額: 7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 返済期間: 設備資金20年以内、運転資金10年以内
- 特徴: 新規開業資金よりさらに低金利
再チャレンジ支援融資
- 対象: 廃業歴等のある方で、再度創業する方
- 融資限度額: 7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 返済期間: 設備資金20年以内、運転資金15年以内
- 特徴: 過去の廃業歴を考慮した審査
生活衛生新企業育成資金
- 対象: 生活衛生関係の事業を創業する方、または創業後おおむね7年以内の方
- 融資限度額: 7,200万円(一般貸付)、1億5,000万円(特別貸付)
- 返済期間: 設備資金20年以内、運転資金10年以内
これらの制度は、創業者の状況や事業計画に応じて選択できます。また、融資以外にも創業相談や経営指導などのサポートも提供しています。
創業融資の実績について
日本政策金融公庫の無担保・無保証人の創業融資に関する最新の公開データによると、2023年度の実績は以下の通りです:
- 貸付件数: 26,447件
- 貸付金額: 1,301億円
これらの数字は、創業前と創業後1年以内の融資を合わせた総計です。内訳を見ると:
- 創業前:17,724件
- 創業後1年以内:8,723件
貸す側のリスクがより高い創業前融資の件数は、増加傾向にあります。
平均貸付額は約500万円となっています。
起業数は、正確にとらえることが難しいのですが、一説には、10万強ともいわれておりますので、20%~30%の起業家が、日本政策金融公庫を活用していることが推測できます。
創業制度は、新規事業の立ち上げを支援するために設計されており、担保や保証人がなくても利用できる点が特徴です。これにより、アイデアと意欲はあるものの、資金調達が困難な起業家にとって、大きな支援となっています。
創業融資の後の支援
日本政策金融公庫は、創業融資だけでなく創業後の追加融資にも積極的に取り組んでくれます。
わたくしどもの最近の事例でも、製造業を営む会社が、『特別貸付』を利用して、無担保で4800万円の融資を受けました。
飲食店でも、『生活衛生貸付』を利用して、店舗の改装費用3000万円を、無担保で調達しています。
日本政策金融公庫は、創業後も、十分な担保のない中小企業に必要な資金を提供してくれる強い味方なのです。
金利
公的金融機関ですので、おおむね2%前後の低い金利設定となっています。
日本政策金融公庫(JFC)の金利は、利用する融資制度や条件によって異なります。無担保よりも、有担保の方が金利は安く、また、返済期間が長い方が、金利が高く設定されています。
金利は金融情勢によって変動するため、最新の情報は日本政策金融公庫の公式サイトや最寄りの支店で確認することが推奨されます。
また、特定の条件を満たす場合には、より低い「特別利率」が適用されることがあります。例えば、新規開業者や女性、若者/シニア起業家支援資金などでは、特別な条件に応じた金利が設定されています。
日本政策金融公庫の融資手順
日本政策金融公庫で創業融資を借りる手順は、次の通りです。
まずは、電話、オンライン、支店窓口で相談します。営業マンが来てくれるわけではないので、積極的にこちらから動く必要があります。
次のステップは、融資申し込みです。インターネットで申込をします。インターネットは、24時間365日、申込可能です。必要書類の提出も、インターネットで経由です。日本政策金融公庫のHPを通じてアップロードします。
次のステップは、面談です。日本政策金融公庫の支店で面談が行われます。さらに、担当者は、店舗や事業所の予定地を訪問します。
融資が決定された場合は、契約手続きの後に、融資金が、申込者の銀行口座に着金します。日本政策金融公庫は、預金口座がないので、他の銀行で着金用の口座を作る必要があります。
基本的にオンライン手続きですが、税理士等を使って申し込む場合には税理士が手続きを代行してくれます。
まとめ
日本政策金融公庫は政府100%出資の公的金融機関であり、全国152支店を展開しつつ、セーフティネット機能、経済成長・発展への貢献、地域活性化という政策的目的で運営されています。中小企業や個人事業主、農林漁業者向けに融資を行っており、銀行と比べて審査基準はゆるく、より長期での返済が可能であり、無担保・無保証人融資も提供されています。金利は、金利動向の影響を受け、融資制度や条件によっても異なりなりますが、おおむね2%前後と低く設定されています。創業融資については、2023年度には26,447件、1,301億円の実績があります。起業の年間総数を正確にとらえることは、難しいのですが、一説には、10万ともいわれておりますので、創業融資は、創業企業にとっては、強い味方といえるでしょう。
さらに、日本政策金融公庫と融資契約があるだけで、公庫の審査を通った会社として評価され、他の金融機関からの借入が有利となります。