株式発行で創業資金の大半を集めたいが、経営権を維持する方法はあるか?

この記事を書いた人
工藤聡生

公認会計士・税理士
元銀行員、20年にわたり、創業融資、銀行融資、VCからの資金調達を支援てきました。資金調達の累計額は、100億円以上です。

創業にあたり、資金が不足しているので、日本政策金融公庫の無保証融資、および知人からの借り入れを検討しています。
知人に出してもらう資金の占める割合が高いので、このままでは、株式の過半数を割ってしまいます。
そこで質問ですが、日本政策金融公庫からの融資を資本金にあてて私名義の株式にすることは可能でしょうか?
この方法がとれない場合、ほかに株式の過半数を維持する方法はないでしょうか。

創業融資では、社長個人で借りて会社に出資するという方法は、認めてもらえません。
日本政策金融公庫は、資金を事業に使う企業に直接に貸し付けするのが原則だからです。
出資金に使う資金は、創業融資制度の対象外です。
又貸しは、認めてもらえないのです。

以下、いくつかの手法について説明しますが、まずは確実に知人からお金を出してもらえるようにしてください。
知人からの出資話は、流れてしまうことが少なくありません。
知人が得られるメリットを明確にする必要があります。
投資に対していつどれだけの見返りが得られるのかを明示しないと相手は、最後は躊躇します。
ましてや、株式の過半数をこちらで握りたいのであれば、その分だけさらに投資のメリットを強く明確に訴える必要があります。
配当、エグジットの方法、エグジットが遅れた場合の買い戻し条件等々、相手にとって魅力的な投資案件にしてください。
知人からの資金調達については、借入としても、また株式発行により受け入れることも可能です。
株式発行による資金調達の場合は、返済義務はありません。
したがって会社の財務をその分だけ強化することができます。
ただ、株式は、さまざまな権利を伴います。
代表的な権利が、会社の最高議決機関である株主総会における議決権です。
ご質問の場合のように、創業者の自己資金が少ない場合には、そのまま株式を発行すると、株式の過半数を第三者である知人に握られてしまいます。
そうなると創業者は、いつでも会社を追い出されてしまう状態に置かれ、安定的な経営権を失ってしまいます。
これを避けるためには、現実的な対策としては、次のような対策が考えられます。

  1. 現物出資を行う
  2. 無議決権株式を発行する
  3. 黄金株する
  4. 第三者には、高い株価で株式を発行する。
  5. 一部の資金を借入金として受け入れる。

以下、ひとつひとつ説明していきます。

【現物出資】

現物出資とは、現金に代えてモノを出資する方法です。
設備、車両、PC等、事業で使うモノであれば、現物出資することができます。
ソフトウェア等の目に見えないモノも、事業用資産であれば、現物出資の対象となります。
ソフトウェアは、目に見えませんが、適正な原価計算を実施することにより、評価額を与えることができます。
現物出資は、以前は裁判所に選任された検査役の調査が必要であったため、あまり利用されませんでしたが、いまは500万円以下であれば、検査役の検査も、公認会計士、税理士、弁護士等の評価証明書も不要なので、よく活用されています。
さまざまな資産を現物出資して自分の持ち分を増やすことにより、議決権の過半数を確保するのは有効な対策です。

【無議決権株式】

議決権を行使できない株式を発行する方法です。
無議決権株式は、株主総会での議決権がないので、創業者は、持ち分比率が小さくとも、高い議決権割合を維持できるので経営権を維持することができます。
経営には参加したくないが、配当は平等にもらいたいという投資家には向いたスキームです。
ただ、このスキームは、創業者と第三者の間によほどの信頼関係がないと実行できません。
投資家としては、経営に介入したいとは思っていないが、リスクをとって出資する以上は、いざというときには、株主総会で議決権を行使して、自分の要求を主張したいと考えるのが通常だからです。

【黄金株式】

定款で定めた重要事項について、拒否権を与えられた種類株式です。
重要事項について拒否権を持つので、たとえ、議決権の過半数をもっていなくとも、経営上、強い発言権を守り続けることができます。

【第三者には高い株価で発行する】

株価は、時とともに変動するものです。
未公開企業でもこの事実は変わりません。
理屈がつけば、創業から数ヵ月が経過した時点で第三者に高い株価で株式を発行して悪いということはありません。
高い株価で発行すれば、資金の大半を外部に頼っても、株式の過半数を維持することは可能です。
株価は、企業価値そのものです。
企業価値は、理論上は、会社の収益力に応じて上昇します。
創業直後であっても、技術開発に成功したとか、重要な契約がとれたとか、顧客認知が進んで売上が拡大したという事実が発生すれば、株価は上昇します。
収益力が向上したという理屈付けができれば、税務上も道義上も、創業直後に株価を吊り上げても指をさされることはありません。
より高い株価で資金調達が可能となれば、経営者は、資金調達により財務を安定化できるだけでなく、株式の過半数を維持して、会社経営も安定させることができます。

【一部の資金を借入金として受け入れる】

知人からの資金の一部を借入金として受け入れば、創業者が株式の過半数を維持することは可能です。
金利次第では、知人も出資ではなく、貸付の方を選ぶでしょう。
高い金利をもらえて、元本も返済計画通りに戻ってくるわけですから、リスク分散の観点からも、少なくとも一部は貸付扱いにしてくれるはずです。
ただ、借入金とされた部分については、金利を払い、元本を返済しなければならないので、会社の資金負担は重くなります。

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