創業融資を使って、不動産物件を購入することの是非

この記事を書いた人
工藤聡生

公認会計士・税理士
元銀行員、20年にわたり、創業融資、銀行融資、VCからの資金調達を支援てきました。資金調達の累計額は、100億円以上です。

8年間、デイサービスに勤務してきました。
独立して、小規模なデイサービスを始めようと思っています。
自己資金は400万円ほどあります。
不動産を探していますが、改修を認めてくれる賃貸物件がなかなかありません。
そこで、家賃をずっと払い続けるのもばからしいので、購入も検討しはじめたところ、ちょうどよい物件を見つけました。
価格は、改修費用も込みで2,000万円ほどします。
日本政策金融公庫と県の創業融資はダブルで借りることが可能だという話を友人から聞いたので、もしそれが可能なら、両者から自己資金の2.5倍の1,000万円ずつを借りて、あわせて物件購入代金の2,000万円を調達しようと思っています。
本当に自己資金400万円で2,000万円を借りることができるのでしょうか。
資産形成にもなるのでできれば購入したいと考えています。
アドバイスをお願いいたします。

介護ビジネスは依然として確実に市場が拡大しています。
業界経験も長いのできっとケアマネさんとのルートもおありでしょう。
地道な営業努力を習慣化することと、ほかのデイケアとの差別化をはかることを忘れなければ、きっと成功されることでしょう。
デイケアもサービスや食事で差別化を計るかどうかで売上げは大きく変わってきます。
継続してさまざまな創意工夫にチャレンジし続けることが大切です。

物件を購入すべきか否かを検討するために以下に簡単に資金繰りをシミュレーションしてみましょう。
10人以下の小規模なデイサービスだと月間売上げは250~350万円くらいです。
人件費、水道光熱費、そのほかの諸経費を引くと手残りの利益は50~80万円くらいとなります。
そこから法人税等を控除すると手残りは、だいたい約35~60万円となります。
ただ、6ヶ月から1年ぐらいは稼働率が低いでしょうから、その間は、十分な売上げは期待できません。
当初6ヶ月の赤字補填のために600万円くらいの運転資金は必要となるでしょう。

※赤字補填のための運転資金=月額経費200万×50%×6ヶ月=600万円

また、収入のほとんどが保険料収入なので売掛金の回収が2ヶ月、遅くなります。
売上げが300万円としても、約600万円の運転資金がさらに必要となります。
となると、運転資金だけでも合わせて1,200万円は確保しておくべきでしょう。
運転資金だけでも、自己資金の400万円は使い果たされてしまいますし、さらに800万円が不足しています。
二つの創業融資制度にダブルで申し込んで2,000万円を調達できたとしても、そのうち少なくとも800万円は運転資金として確保しておかなければなりません。
ですから不動産の購入は困難です。

また2,000万円を10年返済するとしても、金利を含めると毎月17万円ぐらいは返済しなければなりません。
上述のように月々のネットキャッシュインが約35~60万円なので負担はかなり重くなります。
ちょっと売上げが落ちれば、資金ショートしかねません。
資金繰りの観点からも、不動産物件の購入はお勧めしません。
粘り強く、賃貸物件を探し続けるしかないでしょう。

創業融資は自己資金の3倍が目安なので、調達額は、平均的には1,200万円ぐらいです。
ただ、二つの制度に同時に申し込むことはできるので結果として調達額が倍の2,000万円となることはあります。
ただ、ほかの創業融資から1,000万円を調達することを前提として別の創業融資制度にさらに1,000万円を申し込むことはできません。
物件の見積書を見せなければならないので、1,000万円の調達額で不足しているのは明らかであり、他の創業融資も活用することは不可避的にばれてしまいます。
協調融資という手もありますが、上述したように資金繰り上問題がありますので審査は通らないでしょう。
融資の技術的な側面や資金繰りからもそもそも無理なのです。

事業を続けていると戦略は当初とは変わっていきます。
不動産を購入してしまったが故に移転できず、新たな戦略の障害となることがあります。
規模拡張などの理由により移転を余儀なくされることもあるでしょう。
戦略や経営環境が変わりやすい創業時期は、不動産の購入は差し控えるべきです。

general

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