公認会計士・税理士
元銀行員、20年にわたり、創業融資、銀行融資、VCからの資金調達を支援てきました。資金調達の累計額は、100億円以上です。
創業計画書の損益計画と資金繰り計画の作り方
二つの数値計画書
創業融資では、数値計画の作成が求められます。
数値の羅列ですが、貸出の審査では、その内容がしつこく訊かれます。
いい加減な数値計画をつくって、審査担当者に計数管理能力がないと思われたら、お金は貸してもらえません。
簡単な数値計画もできない創業者がきちっとお金を返してくれるはずがないと思われてしまうからです。
数値計画には2種類あります。
損益計画と資金繰り計画の二つです。
損益計画とは、利益を出すための計画です。
利益とは、経済的な価値の純増減です。
収益から費用を引いた差額です。
資金繰り計画とは、現預金の増減を管理するための計画です。
なぜ、二つの種類の数値計画が必要なのでしょうか?
それは、利益と資金繰りは、似て非なるもので、異なる動きをするからです。
代表的な例を二つ挙げます。
在庫を買ったら、現預金はなくなり、資金繰りに影響しますが、現金は減っても経済価値のある棚卸資産を手にいれるので、損益に影響はありません。
借金は返済しても現金が無くなった分だけ債務が減るので、費用にはなりませんので、損益に影響はありませんが、現金は減るので資金繰りに影響します。
このように利益と資金繰りは、異なる動きをするので異なった計画書が必要となるのです。
創業計画書の標準フォーマット
損益計画書と資金繰り計画書は、創業計画書の標準フォーマットでは、異なる名前が与えられています。
創業融資の標準フォーマットでは、損益計画書は、『事業の見通し』と言われています。
簡略化されて書きやすくなっています。
ちょっと簡略化されすぎているので、審査を有利にするめるために、通常は、より詳細な損益計画書を添付します。
勘定科目をより細かく設定して、すくなくとも36カ月の月次推移の形で損益計画書を作成して添付します。
その方が、会社の生存能力や成長力を客観的に説明できるからです。
資金繰り計画書は、創業計画書の標準フォーマットでは、『必要な資金と調達方法』とか、『創業時の投資計画とその調達方法や内容』と呼ばれています。
これも、かなり簡略化されています。
損益計画の場合よりも、さらに一層、簡略化されています。
こちらも、審査を有利に進めるために、詳細な資金繰り計画表を添付するのが常識です。
損益計画同様に最低でも36カ月分の月次の資金繰り計画が必要です。
損益計画、資金繰り計画という名称が、一般的な呼称ですが、日本政策金融公庫では、『月別収支計画』とか『資金繰り表』と呼んでいます。
損益計画のアピールの仕方
まずは、損益計画のアピールの仕方について説明します。
損益計画では、利益が確実に出ることを示す必要があります。
そのために、大切なのは、売上目標値です。
事業経験で過去に実績があれば、説得は簡単です。
サラリーマン時代の実績値をアピールすれば、よいだけです。
手作りでもよいので、サラリーマン時代の売上実績がわかる資料を提出してください。
しかし、売上実績の経験がない場合には、計画のち密さ、強さをアピールするしかありません。
ひとつの方法は、価格設定を明確にするということです。
売上を数量と単価に分け、その単価の基となる価格表を作成します。
この価格を業界最低値に設定して、比較できるように、競合の価格表も添付してください。
価格競争力が強いのだというアピールをするのです。
商品やサービスの魅力は、その業界の部外者の審査担当者には、理解しづらい面があります。
しかし、価格が競合よりも安いという事実は、業界素人でも理解しやすいので強いアピールとなります。
価格を抑えると利益が出づらくなることを心配されるかたがいますが、利益は、最初から黒字である必要はありません。
開業5~6ヶ月目から少しずつ利益が計上され、初年度後半から税引き後利益が借金返済額を超過するようなプランであれば十分です。
審査担当者は、創業企業が最初の月から黒字であることをそもそも期待していませんので、こういったプランの方が逆に現実性があります。
資金繰り計画のアピールの仕方
資金繰り計画でアピールするのは二つです。
- 資金使途の妥当性
- 返済財源がある。
資金使途とは、借りたお金の使い道です。
借りるお金が事業目的に使われることを示す必要があります。
36カ月分の月次資金繰り計画表を作れば、運転資金や設備投資資金として、当該借入がどうしても必要であることは明らかになるので、自ずから資金使途を明確に示すことができます。
つぎは、返済財源の説明です。
ちゃんと返せることを、数値計画で説明する必要があります。
資金使途が在庫資金や売掛金の増加なら、将来の売上が返済財源となることを資金繰り表で明示してください。
創業赤字の填補や設備投資なら、将来の利益が返済財源となることを明示する必要があります。
少しづつ売上が増加して、利益が生まれ、増加し、税引き後利益額が、やがては月々の借入返済額を越えていく計画を作成してください。
36カ月分の月次の資金繰り計画表は、作成は手間取りますが、資金使途と返済財源の説明には、なくてはならない資料です。
もっとも大切なこと
なによりも重要なのは、損益計画と資金繰り計画をよく理解して、創業者自身がすらすらと説明できるようにしておくことです。
審査担当者からは、さまざまな説明がとんできますので、よどみなく答えられる必要があります。
数値計画がよくできていても、肝心の経営者がその数値計画を理解していなければ、審査担当者は不信感を持ちます。
大切な数値計画が人任せで、しかも、計数に関する理解能力がないと思われたら、審査は、とても不利になります。
general