公認会計士・税理士
元銀行員、20年にわたり、創業融資、銀行融資、VCからの資金調達を支援てきました。資金調達の累計額は、100億円以上です。
飲食店の開業資金の調達の仕方
- 飲食店を開業予定です。
物件を借りる費用、保証金、内装費、厨房設備、什器・備品、運転資金を考慮すると、2000万円以上の開業資金が必要となります。
しかし、手元資金には400万円しかありません。
日本政策金融公庫から残りの1600万円の開業資金を借入可能でしょうか。
勤務経験は、10年です。 -
お店を開業するときの最大のハードルは、開業資金の調達です。
日本政策金融公庫のデータによれば、平均的に1,000万円を超える開業資金が必要となります。
飲食店の開業には、高額の資金が必要なのです。
以下、細かい論点は意図的に省いて、いかにすれば、この開業資金を調達ができるかという最重要論点に絞ってコツをお伝えします。自己資金が400万円なので、借入すべき金額は、1600万円となります。
借入必要額は、自己資金の4倍となります。
創業融資は、通常は自己資金の2.5倍から3倍が借入限度額と言われています。
したがって、質問者様の場合は、2.5~3倍の平均水準をはるかに超えていますし、金額も日本政策金融公庫が高額融資を感じる水準ですので、漫然と日本政策金融公庫に申し込み、アピールする努力を怠れば、おそらく謝絶されます。
創業融資は、審査があります。
審査担当者に『この人なら大丈夫だ』と思わせることができなければ、審査に通過できません。
しかし、以下の方法に従えば、成功確率は飛躍的に大きくなります。1)まず、自分の強みを明確化する
強みを明らかにして、創業計画書上に明確に記載してください。
この場合の強みとは、勤務時代の経験や貢献です。
どの店で何年働き、その間にその飲食店の売上貢献にどのような形で貢献したのかを明確にしてください。
勤務時代に目立った実績があるなら、具体的に記載してください。例えば、責任者としてその店の売上を倍にしたとか、会社で表彰された、マスコミで取り上げられたという実績があるなら、記載してください。
職歴だけでなく、調理学校卒業等の技術を学んだ等の技術習得の経験も創業計画書には必ず、記載してください。基礎訓練を経ているというのは立派な経験です。2)市場分析
市場分析は、ほとんどの方が、創業融資を軽く考えているためにやりません。しかし、飲食店の開業に限って言えば、市場分析をするかどうかは、審査担当者を最後に一押しできるかどうかの分かれ目なのです。
創業計画書では、販売ターゲット、セールスポイント、競合・市場、取扱商品について記述する箇所があります。この部分は、丁寧に説明するために、添付資料を作る必要があります。
添付資料で、出店地域における半径1キロ以内のライバルの名前を列挙して、具体的に分析し、自社と細かに比較検討してください。それぞれの飲食店の種類、座席数、人気度、その店の強み、それに対する自社の強みを表にまとめましょう。個々の競合に対して、販売ターゲットを獲得するために、いかに差別化を図るかを説得力がある具体性をもって記述してください。
この分析には、とても手間がかかります。しかし、審査担当者へのアピール力は絶大です。
わたくしどもでもこの分析をして飲食店の創業融資に失敗したことは一度もありません。
実際にこの分析を客観的にしっかりとできる人は、その後の実際の事業でもまず失敗していません。わたくしどもが驚くほどの成功をされているところもあります。
この市場分析の考え方は、ウーバーイーツ、出前館といったプラットフォームを利用する場合にも、適用可能です。プラットフォームを主に使って、開業予定の場合は、市場の半径をぐっと広げてこの分析を実施してください。3)現実的な収支計画を作成する。
飲食店は、座席数をベースに売上予測をするのが、セオリーです。
飲食店の原価率、売上高利益率、人件費率、従業員1人当たり売上高などのデータは、日本政策金融公庫が公表していますので、それを使ってください。創業計画書の事業の見通しは、初年度は赤字でかまいません。逆に赤字でないと必要資金額が減ってしまうので、借入可能額が減少してしまいます。
2年目から黒字になる計画にしてください。4)協調融資を利用する
1,000万円を超える融資となると日本政策金融公庫の担当者は、ちょっと腰がひけます。日本政策金融公庫は、前身は、国民金融公庫と言われていました。1,000万円を超える融資は本店決済だったという歴史的背景から、かれらにとっては、高額融資と感じられるのです。ですので、リスク分散をしてあげると融資を有利になる傾向があります。この場合は、信用保証協会付きの創業融資と協調融資をしてもらうのが現実的な選択です。日本政策金融公庫から1,000万円(生活衛生貸付)、信用保証協会付き創業融資をつかって開業予定の地元の信用金庫から600万円を借りることになります。
手順としては、創業計画書の原案を作り、それをつかって、飲食店の開業予定地の信用金庫に相談してください。開業予定場所の信用金庫で600万円、日本政策金融公庫から1,000万円の協調融資を受けたいという希望を伝えてください。
信用金庫にとっては、創業融資は100%信用保証協会の保証がつくので、リスクなしで金利が稼げるおいしい商売です。ですので、親身に相談にのってくれます。メガバンクなどの大手は、小さな取引は事務工数がかかるので嫌がりますので、まともな対応はしてくれません。
信用金庫で話が通じたら、次は、日本政策金融公庫の窓口で相談してください。相談日程は、インターネットで簡単に翌日以降のアポが取れます。この時にも創業計画書の原案をもっていき、協調融資を希望していること、地元の信用金庫には、すでに相談を始めていることをお話しください。できれば、この部分は、当社に限らず、開業資金の調達を専門にしている税理士に相談するのが一番です。なぜなら、日本政策金融公庫の担当者も、創業融資にとても積極的な人とちょっと保守的な人がいるからです。上記の市場分析をしていれば、積極的な担当者であれば、1,000万円程度の協調融資には問題なく応じてくれますが、保守的な人だと非協力的な態度をとられることがあります。日本政策金融公庫の審査基準は、完全にマニュアル化はできてないので、属人的な部分があるのです。開業資金の調達に強い税理士は、積極的な担当者としか付き合わないので、できれば活用した方がよいでしょう。
日本政策金融公庫の担当者が前向きだと、信用金庫や信用保証協会の審査にも良い影響を与えますので、担当者は選べるのであれば選んだ方が良いのです。なお、日本政策金融公庫の創業融資と信用保証協会利用の制度融資は、ともに、無担保無保証の融資制度があります。信用保証料込の実質的金利でも、ともに、2%前後の低金利に設定されています。ともに返済期間が長く、据置期間も設定できるので、しっかりと損益管理をしながら経営をすれば、負担は重くはありません。