創業計画書の記入例~日本政策金融公庫の記入例の改善点

この記事を書いた人
工藤聡生

公認会計士・税理士
元銀行員、20年にわたり、創業融資、銀行融資、VCからの資金調達を支援てきました。資金調達の累計額は、100億円以上です。

まねをしたら断られた?

この記事では、日本政策金融公庫による創業計画書記入例を提供しています。
日本政策金融公庫が作成したものですが、実は、あまり出来栄えはよくありません。
日本政策金融公庫の記入例どおりに書いても融資に失敗することもあります。
審査担当者は、他人の計画書のあらを探すのは、うまいですが、自分で作ったことがないせいか、作成の出来はよくありません。

審査担当者の考え方

まず、前提となる、審査担当者の実際に判断基準についてご説明します。
日本政策金融公庫の融資担当者は、人により多少の差異はありますが、審査の際に概ね以下のように判断しています。

  • 自己資金は、十分か。融資可能額は、平均的には2.5倍から3倍です。
  • 十分な事業経験はあるか。勤務経験については、かれらはとても重視しています。自分の強みをアピールできた申込者は、高く評価されています。勤務経験で培った強みが、事業に生かされる計画にはよい評価を与えます。
  • ターゲット設定とセールスポイントは説得力があるか。ターゲットを絞った上で、強いセールスポイントがあることをアピールするべきです。
  • 営業の見通しはあるか。すでに潜在顧客をもっていたり、あるいは、営業実績が豊富にあったりすると極めて高い評価を与えます。
  • 市場やライバルを把握しているか。市場分析や競合分析については、記入例にはほとんど記述がありませんが、市場を分析した資料が添付されていれば好印象を与えられます。
  • 価格競争力はあるか。競合よりも低価格しか設定できなくてもそれでも生き残れるコスト体質の企業に好感を持ちます。
  • 動機づけは十分か。使命感ややる気のなさそうな創業者については、減点します。
  • 事業内容が明らかか。よく理解できない事業には貸したくないと思っています。ですので、ITなどのわかりづらいビジネスの場合は、視覚的な説明資料が大切です。
  • 借入申込者の計数管理能力にはとても敏感です。借入金の使途と返済原資、損益計画はすらすらと説明できる必要があります。
  • 資金繰り表は添付されているか。資金繰り表が添付されていて、きちっと説明できる創業者はとても高く評価します。逆に資金繰りの説明がないと貸した金を返してもらえそうもないなと思われてしまいます。
  • 添付資料の豊富さ。私どもがお薦めしているように、とにかく添付資料をたくさん持参する申込者は高く評価されます。

創業融資のもう一つの柱である制度融資の場合には、信用保証協会が可否を決裁しますが、判断基準は変わりません。

上記の判断基準からすると、日本政策金融公庫が提供する創業計画書の記入例には、以下の欠点があります。

記入例の欠点

  1. 事業経験の記述が弱い 事業経験については、創業計画書記入例では、略歴しか書いていませんが、添付資料をつけてそこで詳しく記述する方法が有効です。各職務を単に羅列するのではなく、創業者が勤務経験で培った強みを具体的にアピールしてください。そして、その強みと事業のセールスポイントを関連させてください。事業を成功させる強みがあることをアピールするのです。
  2. 事業のセールスポイントがあいまいです ターゲットの特性やニーズに合わせてセールスポイントを記述してください。ビジネスは他社よりも優れていなければ生き残れません。低価格、高付加価値、製造技術、営業手法等々のセールスポイントを具体的にアピールするべきでしょう。事業経験との整合性も大切です。
  3. ターゲット層が不明 ほとんどの記入例は、ターゲットが曖昧です。
  4. 動機の記述の不十分さ 記入例の動機付けの記述は、とても貧弱です。まねて書くと「不真面目なやつ」と思われかねないので、注意してください。熱く使命感を語ってください。熱い言葉をそのまま信じる審査担当者はいませんが、すくなくともいい加減なやつと勘違いされるのを防ぐことはできます。
  5. 事業内容を理解してもらう努力が不足 記入例では、写真や流れ図が使われていません。事業内容を理解してもらい、かつ、セールスポイントをアピールするには、写真やフロー図などの視覚的な資料を付けると有効です。とくにITなどの理解しづらい業種には必須です。
  6. 資金繰り計画書の欠落: 資金繰り計画表が添付されていません。公的金融機関とはいえ、本質的には金貸しです。ですから、最大の関心事は、資金繰りです。詳細な資金繰り計画を作成して、すらすらと説明できれば、非常に高い評価をもらえます。資金繰りの説明がないと、経営のできない人と思われてしまいます。記入例には、資金繰り計画表は、添付されていませんが、作成して添付するべき資料です。資金繰り計画表がよくできていればいるほど審査担当者の心証はよくなります。なんで資金繰り表が重視されるかというと、資金使途と返済財源が明らかになるからです。創業融資にかぎらず、銀行は、この二つの視点から融資の可否を決定します。⇒資金繰り計画表の実例
  7. 価格戦略まで踏み込んだ詳細な損益計画が添付されていません 価格戦略まで説明した損益計画を添付すると強くアピールできます。具体的には、「良いものを安く売るが採算は確実にとれる」ということをアピールするのです。ビジネスの戦いは常に厳しいものです。その厳しさを受け入れ、立ち向かっている姿勢があるとないとでは、評価は変わってきます。
  8. 添付資料の不足 市場調査や競合分析についても、創業計画書記入例では、紙面の都合上、深く分析されていませんが、調査資料を添付すると説得力は強くなります。ビジネスを成功させるために汗をかいたという姿勢は、大切です。

これらの記入例の欠点は、必ず考慮してください。
事業を軌道に乗せるためには、創業資金の調達に失敗するわけにはいかないので、記入例を超えるレベルの創業計画書を作成する必要があります。
創業計画書記入例は、あくまで理解の手助け程度にお考えください。

日本政策金融公庫による創業計画書記入例

次のホームページで記入例をダウンロードできます。


創業計画書は創業融資を調達するためにはとても大切は書類です。
創業融資は申込者の50%の方しか成功していません。
記入例をなんとなくまねて創業計画書をつくっても審査担当者に「大丈夫だ」と思ってもらうことはできません。
上述した記入例の欠点を留意して、きちっとした創業計画書の作成を心がけてください。
みなさまが創業融資に成功されることを願っております。

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